DemonFeeder
概要
魔物に自らの身命を差し出すことを代償として呪文を扱う“魔物飼い(ヴィルト)”。彼等は自らが呼び寄せた魔物に翻弄されつつ、運命を切り開くために抗う。※ [独] Wirt(ヴィルト)…宿主
人物
セロ(Cello)/20代半ば/男
幼少の頃、ある男への復讐のため、自ら「魔物飼い(ヴィルト)」となった呪文使い。その男を捜して旅をしていたが、クラヴィアの魔剣に、遠い記憶に通じるものを感じ、行動を共にすることに。実際は、魔剣に共鳴を感じたのは彼自身ではなく、彼に棲み付く魔物。
性格はぶっきらぼうで、他人に心を開かない。しかし、他人を気遣ったり、道義に合わないことを見過ごせなかったりと、情に厚い一面もある。
病魔:胸に強い痛みをおこす。活動は不規則。病変や損傷はなく、痛み自体が糧となるらしい。実は古くから多くの人間を転々としてきた、クラヴィアの魔剣の宿敵。
※セロ…チェロ。ヴァイオリン属の弦楽器の一つ。
クラヴィア(Klavier)/20代半ば/女
生まれた時から魔剣「ペルノー(pernod)」に魅入られた宿命の女性。魔剣を封印し結界の中で平穏に生きていく選択もあったが、魔剣の造られた目的を知りたいと思い、その能力を解放する。それに従い、「魔剣を手放せば破滅する」という禁忌を背負う事となる。魔剣の力に呑まれない為、幼馴染のシャンクに剣を習い、その腕前は一流。魔剣の力により、魔物の気配を感じ、呪術と渡り合える能力を持つ。現在は医術を志し、町の老医師に師事している。性格は冷静で探究心が強く、自分の努力で何とかなる事はまず努力しようとする。それ故、無茶をしたり、自分を大事にしない所があり、シャンクは密かに心配している。初めて出会った「魔物飼い(ヴィルト)」であるセロに、最初は探究心から、そして次第にその内面に惹かれていく。
※クラヴィア…ドイツ語でピアノの意。
シャンク(Shank)/20代後半/男
“一騎当千”と称えられた伝説の傭兵。大きな戦乱が収束しつつある近年は、賞金稼ぎまがいの生活をしている。クラヴィアの幼馴染で、彼女が魔剣を解放すると決意した時から、彼女に剣を教えた。呪力は持たないが、呪術的な加護の施された武具を扱う。性格は温厚で世話好き。戦うこと、殺戮することを生業とする人間とは思えない程。クラヴィアには兄妹のように接しているが、いつしか彼女に淡い想いを寄せていた。しかし、クラヴィアには自分よりもっと相応しい相手が現れると思い、打ち明けないでいる。セロに惹かれるクラヴィアを見て複雑に思いながらも、二人を見守っている。
※シャンク…管楽器のマウスピースにおける楽器本体との接合部分。
シズル(Sizzle)/推定20代半ば/女
セロの旧知らしい、謎多き魔物飼い(ヴィルト)。性格は奔放で掴み所がなく、時として白痴にも、恐るべき策士にも見える。魔物:身体を少しずつ獣の姿に変えていく。“発作”には激しい痛みと高熱を伴う。人には決して見せないが、手足の末端に羽毛、背中に翼の先端が出現している。
※シズル…シンバルに穴を開け、そこに鋲(リベット)を打ち込んだシンバルをシズルシンバルと呼ぶ。
クラッシュ(Crash)/魔獣/雄
シズルに寄り添う、大きな黒犬の姿をした魔獣。非常に賢く、人語を解し、いくつかの術を操る。実はシズルの恋人が「魔物飼い(ヴィルト)」となり、彼に棲み付いた病魔によって姿を変えた存在。シズルも類似の魔物を飼っている事から、同様の末路を辿ると推測される。※クラッシュ…シンバルの一種。シズルシンバルにはライドシンバルを用いるのが一般的だが、クラッシュシンバルやチャイナシンバルを用いる場合もある。
フレット(Flet)/男
幼少のセロに魔物を棲み付かせ、呪文を教えた師匠。魔物:肉体を少しずつ、削り取るように喰らっていく。その“食事”の凄まじさと引き換えに、彼は絶大な呪文の力を手にした。セロと出会った時にはすでに左腕が肘辺りまでしか無かったという。肩口まで喰われた時点で彼はセロの前から姿を消した。その後の消息は不明だが、恐らく生きてはいないであろう。
※フレット…弦楽器(主に撥弦楽器)のネック(棹)にある、音程を調節する為の突起。
リム(Rim)/10代半ば/女
天性の呪文使い。明朗快活で物怖じしない性格。※リム…ドラムの打撃面(ヘッド)を胴体に固定するリング状の枠。または、管楽器のマウスピースの先端、演奏者の唇に触れる部分。
リリカ(Lyrica)/女
「記憶を喰らう魔物」を宿した魔物飼い(ヴィルト)。 →エピソード「記憶を喰らう魔物」※Lyrics…歌詞。
コーダ(Coda)
超越存在、終末をもたらすもの。外見は少年のような少女のような姿。※コーダ…音楽における終結部。終楽章。
設定
呪文と魔物について
呪文使い |
呪文を扱い、数々の術を顕す特殊な才能と能力を持った人間。 |
---|---|
魔物飼い(ヴィルト) |
天性の呪力には恵まれなかったが、魔物に自らの身命を差し出すことを代償として呪力を得、呪文を扱う人間。 呪文の鍛錬をするうちに、自身の力だけでは及ばず、魔物に棲み付かれてしまう場合もある。 |
呪術使い |
呪力ではなく、複雑な呪術理論と修練された精神力によって、呪いや結界などの術を顕す技術を身に付けた人間。 |
魔物 |
呪力を帯びた存在・生物の総称。 |
病魔 |
人間の身体に棲み付き生命力を喰らう魔物。棲み付かれた人間は病を患い、通常の医術で治すことはできない。 病魔による病を治すには呪文・呪術により病魔を駆逐するしかない。 |
魔獣 |
呪力を帯びながら物理的な肉体に強く依存した生物の総称。多くは獣の姿。 |
呪文について
元々呪文は、個々の呪文使いがそれぞれの奥義として編み出したもの。いくつかの呪文は広く教えられ広まったが、ごくわずかの呪文使いしか習得していない呪文や、新たに編み出され、その呪文使いしか使えない呪文もある。
基本的に呪文の威力はレベルの差異よりも術者の腕に依存する。レベルの異なる呪文を組み合わせた呪文も存在する。
【呪文の流布度】
A…基本的な呪文、広く知られている呪文
B…あまり知られていない呪文
C…特定の術者に固有のものなど、特殊な呪文
Level 1 |
Level 2 |
Level 3 |
最高位呪文 |
---|---|---|---|
A・大地の咆哮(アースクェイク) A・怒りの雷鳴(サンダークラップ) A・鮮烈なる光刃(マティーニ) A・急襲の陽光(スクリュードライバー) A・いにしえの楔(ラスティネイル) A・螺旋の鉄槌(ギムレット) A・凍れる障壁(ニコラシカ) B・神速の蹴撃(フォックス・トロット) B・饒舌なる語り部(イエロー・パロット) B・流転の息吹(シャムロック) B・不実の宵闇(ブルー・ムーン) B・牙剥く荒波(ソルティドッグ) B・鮮血の王妃(ブラッディマリー) |
A・純白の微睡み(エッグ・ノッグ) B・凍てつく嵐(ジュレップ) B・(ハイボール) |
A・蒼穹の洗礼(ブルー・キュラソー) A・白銀の洗礼(ホワイト・キュラソー) |
C・(アクアヴィタエ) |
※Level 1…カクテル名、Level 2…スタイル名、Level 3…リキュール名。
エピソード
各タイトルをクリックすると物語を表示します。もう一度クリックすると閉じます。邂逅
ある暑い日、町で買い物をしていたクラヴィア。
すれ違う男と荷物が少しぶつかり、謝ろうと言葉をかけたその時。
男は足元をふらつかせ、地面に膝をついてしまった。
あわてて荷物を置き、大丈夫かと駆け寄るクラヴィア。
「…何でもない…構わんでくれ」
ぶっきらぼうに言い捨てる男だが、その声は弱々しく、顔色は蒼白だった。
木陰で休むよう勧めるクラヴィアを制し、立ち上がろうとする男。
その瞬間、彼の意識に衝撃が走った。
町の喧騒が聞こえなくなる。目の前が真っ暗に、そしてフラッシュバックする微かな記憶。
(何だ?これは……、畏れ?)
(そうだ、これは、畏怖…だが何故か、懐かしいような……)
そのまま意識は途切れ、彼は倒れてしまった。
一方クラヴィアは手当てに人を呼びながら、男のことを洞察していた。
膝をついた彼に駆け寄ったクラヴィアは、彼の身体から病魔の気配を感じていた。
だが彼が意識を失うと、すぐにその気配は消えてしまった。
しかも彼の手には呪文使い特有の、呪術的な処置が施された指輪があった。
呪文使いなら病魔を退治できる筈なのに、彼は病魔に憑かれている?その病魔も、出たり消えたりと異例のもの…
病人への気遣い、医術を志す者の責任感とは別に、クラヴィアは彼が何者であるのか、不可解なほどに関心を引かれていた。
男は夢を見ていた。
夜の草むらに血塗れで倒れているのは、幼き日の彼の姿。
湛える涙は憎悪と憤怒。ひとりの人物を呪う少年。
その執念に導かれたように一人の男が立ち止まり、不敵な笑みを浮かべた。
男が少年に呪文を教えてしばらくが経った。
ある夜、胸の痛みを師に訴える少年。
少年は魔物に棲み付かれていた。
「痛い、痛いよ師匠…。オレ、…死ぬの?」
「さあな、そういう事もあるかもな」
「…やだよ…。まだ、死にたくない。あいつを、あいつを見つけるまでは…!」
男が目を覚ましたのは、クラヴィアの部屋だった。
目覚めた男は、セロと名乗った。
「あなたが倒れた時、病魔の気配を感じた。丁度、そう…胸のあたりね。
あなた、呪文使いでしょう?病魔退治は呪文使いの専売特許じゃないの?」
セロは皮肉めいた笑みを浮かべ、自分の胸を指して言った。
「コイツに限って、俺の呪文は一切効かない。
何故ならコイツは、俺が呪文を使える事の代価として生じたモノだからだ」
すれ違う男と荷物が少しぶつかり、謝ろうと言葉をかけたその時。
男は足元をふらつかせ、地面に膝をついてしまった。
あわてて荷物を置き、大丈夫かと駆け寄るクラヴィア。
「…何でもない…構わんでくれ」
ぶっきらぼうに言い捨てる男だが、その声は弱々しく、顔色は蒼白だった。
木陰で休むよう勧めるクラヴィアを制し、立ち上がろうとする男。
その瞬間、彼の意識に衝撃が走った。
町の喧騒が聞こえなくなる。目の前が真っ暗に、そしてフラッシュバックする微かな記憶。
(何だ?これは……、畏れ?)
(そうだ、これは、畏怖…だが何故か、懐かしいような……)
そのまま意識は途切れ、彼は倒れてしまった。
一方クラヴィアは手当てに人を呼びながら、男のことを洞察していた。
膝をついた彼に駆け寄ったクラヴィアは、彼の身体から病魔の気配を感じていた。
だが彼が意識を失うと、すぐにその気配は消えてしまった。
しかも彼の手には呪文使い特有の、呪術的な処置が施された指輪があった。
呪文使いなら病魔を退治できる筈なのに、彼は病魔に憑かれている?その病魔も、出たり消えたりと異例のもの…
病人への気遣い、医術を志す者の責任感とは別に、クラヴィアは彼が何者であるのか、不可解なほどに関心を引かれていた。
男は夢を見ていた。
夜の草むらに血塗れで倒れているのは、幼き日の彼の姿。
湛える涙は憎悪と憤怒。ひとりの人物を呪う少年。
その執念に導かれたように一人の男が立ち止まり、不敵な笑みを浮かべた。
男が少年に呪文を教えてしばらくが経った。
ある夜、胸の痛みを師に訴える少年。
少年は魔物に棲み付かれていた。
「痛い、痛いよ師匠…。オレ、…死ぬの?」
「さあな、そういう事もあるかもな」
「…やだよ…。まだ、死にたくない。あいつを、あいつを見つけるまでは…!」
男が目を覚ましたのは、クラヴィアの部屋だった。
目覚めた男は、セロと名乗った。
「あなたが倒れた時、病魔の気配を感じた。丁度、そう…胸のあたりね。
あなた、呪文使いでしょう?病魔退治は呪文使いの専売特許じゃないの?」
セロは皮肉めいた笑みを浮かべ、自分の胸を指して言った。
「コイツに限って、俺の呪文は一切効かない。
何故ならコイツは、俺が呪文を使える事の代価として生じたモノだからだ」
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記憶を喰らう魔物
この世のいかなる争い事からも無縁のように見える、穏やかで大人しい女性。
しかし彼女は強い力を秘めた呪文使い、それも魔物飼い(ヴィルト)であった。
彼女は長年の想い人を守るため呪文を使い続け、いつしか魔物に棲み付かれた。
彼女の魔物は宿り主の「記憶」を喰らう変り種。
現在、彼女は兄弟や親族、生まれ故郷に関することの多くを忘れてしまっている。
彼女の想い人は呪文使いでも医者でもなく、自分の無力さを嘆き、いつか彼女が自分のことを忘れる日を何よりも恐れながら、彼女と共に暮らしている。
彼らと知り合ったセロ達に彼は、不安を打ち明ける。
「いつか彼女が、僕のことを忘れてしまったら…僕は黙って彼女のもとを去る方がいいんじゃないか。
彼女の恋人だと名乗っても、彼女を困らせるだけ。
彼女は大切な人を忘れてしまったと自分を責め、とても傷ついてしまうだろう。
それならいっそ何も知らない方が、彼女のため…」
そんな彼をクラヴィアは一喝する。
「彼女はいつか、言葉や服の着方さえ忘れ、生きるのに困るかもしれない。
彼女の失った記憶に付け込んで、彼女の近しい者と偽って近づき、悪事を働く者が現れるかもしれない。
そんな時、彼女を守ってあげられるのは貴方しか居ないのよ。
彼女の病を理解し、一生彼女を愛し続けられるのは、この世界に貴方一人しか居ない。
その貴方が彼女を見捨てたら、誰が彼女を守れるの?」
そして、悲劇の日はやがて訪れた。
ある日家から姿を消した彼女を探し、彼は町を捜し歩く。
そして彼女を見つけ声を掛けると、返ってきたのは絶望の言葉であった。
「貴方はどなた…?私をご存知なのですか?」
彼の心は大きく揺れた。
「……いえ、人違いでした」
彼は必死に平静を装い、その一言を搾り出すと、彼女に背を向け歩き出した。
(これでいいんだ…これで、彼女が少しでも傷つかずに済むなら…)
その時、クラヴィアの言葉が脳裏をよぎった。
『彼女を守れるのは貴方しか居ないのよ。』
次の瞬間、彼は、彼女を抱きしめていた。
驚きに声も出ない彼女を強く抱きしめ、震える声で彼女の名を呼んだ。
「僕は…僕は、君の恋人。君を一生守ると誓った者だ」
しかし彼女は強い力を秘めた呪文使い、それも魔物飼い(ヴィルト)であった。
彼女は長年の想い人を守るため呪文を使い続け、いつしか魔物に棲み付かれた。
彼女の魔物は宿り主の「記憶」を喰らう変り種。
現在、彼女は兄弟や親族、生まれ故郷に関することの多くを忘れてしまっている。
彼女の想い人は呪文使いでも医者でもなく、自分の無力さを嘆き、いつか彼女が自分のことを忘れる日を何よりも恐れながら、彼女と共に暮らしている。
彼らと知り合ったセロ達に彼は、不安を打ち明ける。
「いつか彼女が、僕のことを忘れてしまったら…僕は黙って彼女のもとを去る方がいいんじゃないか。
彼女の恋人だと名乗っても、彼女を困らせるだけ。
彼女は大切な人を忘れてしまったと自分を責め、とても傷ついてしまうだろう。
それならいっそ何も知らない方が、彼女のため…」
そんな彼をクラヴィアは一喝する。
「彼女はいつか、言葉や服の着方さえ忘れ、生きるのに困るかもしれない。
彼女の失った記憶に付け込んで、彼女の近しい者と偽って近づき、悪事を働く者が現れるかもしれない。
そんな時、彼女を守ってあげられるのは貴方しか居ないのよ。
彼女の病を理解し、一生彼女を愛し続けられるのは、この世界に貴方一人しか居ない。
その貴方が彼女を見捨てたら、誰が彼女を守れるの?」
そして、悲劇の日はやがて訪れた。
ある日家から姿を消した彼女を探し、彼は町を捜し歩く。
そして彼女を見つけ声を掛けると、返ってきたのは絶望の言葉であった。
「貴方はどなた…?私をご存知なのですか?」
彼の心は大きく揺れた。
「……いえ、人違いでした」
彼は必死に平静を装い、その一言を搾り出すと、彼女に背を向け歩き出した。
(これでいいんだ…これで、彼女が少しでも傷つかずに済むなら…)
その時、クラヴィアの言葉が脳裏をよぎった。
『彼女を守れるのは貴方しか居ないのよ。』
次の瞬間、彼は、彼女を抱きしめていた。
驚きに声も出ない彼女を強く抱きしめ、震える声で彼女の名を呼んだ。
「僕は…僕は、君の恋人。君を一生守ると誓った者だ」
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呪術使い
戦いのさなか、突如高熱に倒れたシャンク。
それは病でも病魔でもなく、「呪術」によるものであった。
シャンクを救うには、その呪術を施した術者を攻撃するしかない。
セロはその術者に心当たりがあった。
シャンクをクラヴィアに任せ、術者のもとへ向かうセロ。
クラヴィアは自分に根本的な解決の手段が無いことを歯痒く思いつつ、シャンクの看病をしていた。
(シャンク…
“一騎当千”と謳われた戦士が、なんて弱々しい姿…。)
突然、クラヴィアの名を呼ぶシャンク。
意識が戻ったのかとクラヴィアは話しかけるが、どうやらうわ言のよう。
「クラヴィア…また、怪我してるじゃねえか…
あんまり、無理するなよ。俺なら、いつでも傍に…ずっと、傍にいるから…」
今まで聞いたことのないシャンクの言葉に、驚きを感じるクラヴィア。
(シャンク。あなた、私のこと…?)
「…セロ。」
突然出てきたセロの名に、びくりとするクラヴィア。
「セロは、いい奴だよな…ちょっと、ひねてるけど…。
…そうだよ、クラヴィア。お前には、俺なんかより……」
それは病でも病魔でもなく、「呪術」によるものであった。
シャンクを救うには、その呪術を施した術者を攻撃するしかない。
セロはその術者に心当たりがあった。
シャンクをクラヴィアに任せ、術者のもとへ向かうセロ。
クラヴィアは自分に根本的な解決の手段が無いことを歯痒く思いつつ、シャンクの看病をしていた。
(シャンク…
“一騎当千”と謳われた戦士が、なんて弱々しい姿…。)
突然、クラヴィアの名を呼ぶシャンク。
意識が戻ったのかとクラヴィアは話しかけるが、どうやらうわ言のよう。
「クラヴィア…また、怪我してるじゃねえか…
あんまり、無理するなよ。俺なら、いつでも傍に…ずっと、傍にいるから…」
今まで聞いたことのないシャンクの言葉に、驚きを感じるクラヴィア。
(シャンク。あなた、私のこと…?)
「…セロ。」
突然出てきたセロの名に、びくりとするクラヴィア。
「セロは、いい奴だよな…ちょっと、ひねてるけど…。
…そうだよ、クラヴィア。お前には、俺なんかより……」
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代価
シズルが追い続ける、彼女が魔獣飼いとなった理由である敵。
それはクラッシュの仇、彼がその身を魔物に捧げても倒しきれなかった宿敵であった。
シズルはセロ達と共に敵を追っていたが、敵の居所を突き止めると、セロ達を置いて戦いに向かった。
セロ達が追いついた時はすでに遅く、シズルとクラッシュは満身創痍となりながら敵を追い詰めていた。
そして、シズルが最後の力を振り絞り、敵の息の根を止める。
シズルの目的が果たされ、シズル自身の心身が弱りきったその時、彼女の魔物は牙を剥いた。
爆発するように、彼女の身体が変貌を始めた。ほとばしる血、絶叫、暗黒のエネルギー、そして純白の羽毛。
その凄まじさに動くこともできないセロ達。
やがて嵐のような“変貌”がおさまると、そこには一羽の白鷹が横たわっていた。
「…………シズ……ル………?」
震えながら、手をさしのべるセロ。
それを遮るように、傷を負ったクラッシュが駆け寄り、優しくその顔を舐めた。
ゆっくりと顔をおこす、変わり果てたシズル。
じっとセロを見つめる。
見つめあったまま、何もできないセロ。
やがて、シズルはクラッシュに助けられ、よろよろとクラッシュの背に乗った。
彼らの瞳は穏やかだった。
クラッシュがセロ達を見やり、一礼するように頭を下げた。
そして彼らはゆっくりと歩み去った。
シズル達を見送ったセロは複雑な心境であった。
無二の旧友は、二度と戻れぬ変貌を遂げてしまった。
それは紛れもなく、破滅。
だが同時に、自分の一番の願いを叶えた瞬間でもある。
そしてそれらは、形こそ違っても、自分にもやがて降りかかるもの。
彼女は…幸せだったのか?
今はまだ、答えは見つからなかった。
それはクラッシュの仇、彼がその身を魔物に捧げても倒しきれなかった宿敵であった。
シズルはセロ達と共に敵を追っていたが、敵の居所を突き止めると、セロ達を置いて戦いに向かった。
セロ達が追いついた時はすでに遅く、シズルとクラッシュは満身創痍となりながら敵を追い詰めていた。
そして、シズルが最後の力を振り絞り、敵の息の根を止める。
シズルの目的が果たされ、シズル自身の心身が弱りきったその時、彼女の魔物は牙を剥いた。
爆発するように、彼女の身体が変貌を始めた。ほとばしる血、絶叫、暗黒のエネルギー、そして純白の羽毛。
その凄まじさに動くこともできないセロ達。
やがて嵐のような“変貌”がおさまると、そこには一羽の白鷹が横たわっていた。
「…………シズ……ル………?」
震えながら、手をさしのべるセロ。
それを遮るように、傷を負ったクラッシュが駆け寄り、優しくその顔を舐めた。
ゆっくりと顔をおこす、変わり果てたシズル。
じっとセロを見つめる。
見つめあったまま、何もできないセロ。
やがて、シズルはクラッシュに助けられ、よろよろとクラッシュの背に乗った。
彼らの瞳は穏やかだった。
クラッシュがセロ達を見やり、一礼するように頭を下げた。
そして彼らはゆっくりと歩み去った。
シズル達を見送ったセロは複雑な心境であった。
無二の旧友は、二度と戻れぬ変貌を遂げてしまった。
それは紛れもなく、破滅。
だが同時に、自分の一番の願いを叶えた瞬間でもある。
そしてそれらは、形こそ違っても、自分にもやがて降りかかるもの。
彼女は…幸せだったのか?
今はまだ、答えは見つからなかった。
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終焉
セロが幼い頃から追い続けた敵を倒した瞬間、シズルと同じように、彼の魔物が本来の姿を取り戻す。
最後の一撃を放った瞬間、彼の胸を漆黒の翼が突き破り、赤い目をした魔物が顔を出した。
力尽き、胸を食い破られたセロは、崖下に落下してゆく。
「セローーっ!!」シャンクが悲痛な叫びをあげる。
そのとき、崖下で戦っていたクラヴィアに異変が起こった。
彼女の顔も、髪も、闇に染まる。
魔剣が禍々しく光るエネルギーを纏い、それは巨大な鎌のような、新たな刃となる。周りの敵たちは、その衝撃に跳ね飛ぶ。
傍で戦っていたシャンクは彼女の異変に気づき、並ならぬ威圧感に震えを覚える。
『――ワタシハ、イマ、コノトキノタメニウマレテキタ―――』
落下するセロに向かい、猛然と駆けるクラヴィア。それはまるで黒い風。
セロの胸には漆黒の魔物がほぼその姿を現していた。
その魔物めがけて、吸い込まれるようにクラヴィアが跳ぶ。
クラヴィアの名を絶叫するシャンク。
魔剣が、その光の刃が、セロの魔物を貫く。
強い光が、しばし時を支配した。
なにかが叫んでいた気がする。
激しく火花の散る音がしたような気もする。
魔剣によりかかるようにクラヴィアはうずくまっていた。
その光る刃は高々と空へ伸び、セロの胸を貫いていた。
やがて、刃はふっとその光を弱めた。
刃が消える。
セロの身体は支えをなくし、地上へと落下する。
クラヴィアもまた、地面に崩れ落ちる。
遠い昔から追い追われてきた魔物たちの戦いは、終わった…。
最後の一撃を放った瞬間、彼の胸を漆黒の翼が突き破り、赤い目をした魔物が顔を出した。
力尽き、胸を食い破られたセロは、崖下に落下してゆく。
「セローーっ!!」シャンクが悲痛な叫びをあげる。
そのとき、崖下で戦っていたクラヴィアに異変が起こった。
彼女の顔も、髪も、闇に染まる。
魔剣が禍々しく光るエネルギーを纏い、それは巨大な鎌のような、新たな刃となる。周りの敵たちは、その衝撃に跳ね飛ぶ。
傍で戦っていたシャンクは彼女の異変に気づき、並ならぬ威圧感に震えを覚える。
『――ワタシハ、イマ、コノトキノタメニウマレテキタ―――』
落下するセロに向かい、猛然と駆けるクラヴィア。それはまるで黒い風。
セロの胸には漆黒の魔物がほぼその姿を現していた。
その魔物めがけて、吸い込まれるようにクラヴィアが跳ぶ。
クラヴィアの名を絶叫するシャンク。
魔剣が、その光の刃が、セロの魔物を貫く。
強い光が、しばし時を支配した。
なにかが叫んでいた気がする。
激しく火花の散る音がしたような気もする。
魔剣によりかかるようにクラヴィアはうずくまっていた。
その光る刃は高々と空へ伸び、セロの胸を貫いていた。
やがて、刃はふっとその光を弱めた。
刃が消える。
セロの身体は支えをなくし、地上へと落下する。
クラヴィアもまた、地面に崩れ落ちる。
遠い昔から追い追われてきた魔物たちの戦いは、終わった…。
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