STORY

月と黒翼

概要
人の姿を持つ魔性の刀と、小さな魔物の二人連れ。彼等は幼い剣士と出会い、封印された悲劇の扉を開けることになる。
1999.06.12-
人物・エピソード

黒曜(こくよう)/外見20代半ば/男

ぼさぼさの髪、古びた黒い着物を着流し、裸足に草履。およそ旅支度とは思えない格好であてもなく旅をする男。
その正体は、意思を持つ魔性の刀。肌身離さず持ち歩く一振りの刀が、彼の本体。
旅をするために、思念を人間の姿へと実体化し、本当の「身体」である刀を武器として携えている。
その目的は、2つの探し物。
1つは、彼を刀として『使える』人間。
もう1つは、彼が作られた目的。
自らを異形の武器であると知った彼は、自分が何を滅するために作られたのか、すなわち彼に定められた『敵』を探し続けている。
そしてその目的を果たす、つまり『敵』を滅するためには、彼の『使い手』が必要となる。
思念を実体化した現在の姿の彼は、人間並みの剣術とわずかな魔術しか使えない。
人間の姿を放棄して本来の「身体」である刀に宿り、その刀を自在に打ち回せる人間に扱われて初めて、彼の真の力は解放される。ゆえに彼は、彼を『使える』素質を持った人間を探している。
何事にも適当なように見えるが、情に厚い一面もある。特に、人の絆や約束事について敏感なところがある。
黒曜(全身) 黒曜(上半身)

乙月(おとづき)/雄

外見は黒猫の姿。額に三日月のような模様を持つ。人語を話し、千里眼や読心術を始め様々な妖術を使う。
その正体は巨大な黒獅子の魔物。昔、大きな戦いで力の大半を失い、本来の姿を保てないため猫の姿となった。
実は、黒曜の『敵』とは乙月。
その昔乙月と戦い、倒しきれなかった魔術使いが、いつか乙月を倒す者にと黒曜を作り上げた。
乙月はそのことに薄々勘付いているが、今の状態では黒曜に勝てないため、昔の強大な姿を取り戻せる日が来るまでは、黙って黒曜と共に行動している。乙月にとっても、人間に干渉するためには黒曜の存在は都合がよい。
それに正直、自分が黒曜の『敵』であるという事が勘違いであって欲しいと祈っている。
薄情なようで根はお人好し。若干天邪鬼なところがある。黒曜とは口喧嘩が絶えない悪友といった風。

(ましろ)/10代前半/男

真白い髪、空ろな瞳をした、言葉を失った少年。
黒曜の『使い手』。
もともと彼は、ごくありふれた農村の生まれ。
武家の子である年上の幼馴染に剣を教えてもらい、非凡な才能を見せ始めていた。
家の違いに関わらず優しく接してくれる幼馴染は、大切な兄のような存在だった。
しかしある時、彼は言われのない濡れ衣を着せられる。
幼馴染はその罪に怒り狂い、無実の彼を責め立て、ついには刀を抜いた。
混乱した彼は思わず、そばにあった刀で応戦してしまう。
そして、彼の刀は一撃で幼馴染の急所を捉えてしまった。
大切な幼馴染に疑われ、殺されかけ、そしてあろうことか、自らの手で殺してしまった…。
すべてを失った彼は壊れてしまった。
村を抜け出し、幾晩も彷徨った彼は、もはや廃人同然であった。
髪は老人のように白く、その心には何もなく、言葉をも失っていた。
彼に残ったのは、幼馴染が教えてくれた剣だけ。
彼を追い立てるものには、その腕が勝手に応じてしまう。
そうして追手と戦っていた彼に遭遇した黒曜は、その太刀筋に強い共鳴を覚える。
無心、無我、空虚。そして、彼の心に空いた大きな空洞。
それこそ、黒曜が『使い手』に求めるものであった。
使い手に独自の意思があれば、黒曜が自由に力を発揮することはできない。
剣の腕とその空虚さを併せ持つ人間を黒曜は捜し求めていた。
彼が刀を取り落としたとき、黒曜は叫んだ。

「ボウズ、 俺 を 使 え ! 」

黒曜の姿は黒い稲妻と化し、携えていた刀に宿った。そして、黒い火花を発しながら、彼の手元へと飛んだ。
困惑すら見せない少年。襲い掛かる敵に、その刀を振るった。